映画『グランド・ブダペスト・ホテル』に登場する コート・ダジュール レシピ
はじめに
ウェス・アンダーソン監督の色彩豊かな世界観が魅力的な映画『グランド・ブダペスト・ホテル』には、忘れられないほど印象的なお菓子が登場します。それが、伝説的なパティスリー「メンドルズ」が生み出す芸術的なスイーツ、「コート・ダジュール」です。
このお菓子は、3段に重ねられたパステルカラーのシュー生地と、繊細なアイシング、そしてチョコレートの飾りが特徴です。映画の中では、主人公のグスタヴが監獄に差し入れとして運び込ませたり、物語の鍵となる重要な役割を担ったりします。その可愛らしくもどこかノスタルジックな見た目は、観る者の目を楽しませ、強い印象を残します。
今回は、この魅惑的なコート・ダジュールを、ご家庭でも挑戦しやすいようにアレンジしたレシピをご紹介いたします。
材料
コート・ダジュール(約5個分)
シュー生地 * 薄力粉 50g * 強力粉 50g * 無塩バター 80g * 牛乳 100ml * 水 100ml * 塩 ひとつまみ * 卵 3個程度
カスタードクリーム * 卵黄 3個分 * グラニュー糖 60g * 薄力粉 20g * 牛乳 250ml * バニラエッセンス 数滴
アイシング(フォンダン風) * 粉砂糖 200g * 水 大さじ2〜3 * 食用色素(ピンク、緑などお好みの色) 少量
飾り * 板チョコレート(ミルクまたはビター) 20g程度 * 刻みピスタチオ(お好みで) 少量
作り方
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シュー生地を作る準備をします。
- 薄力粉と強力粉は合わせてふるっておきます。
- 鍋に牛乳、水、無塩バター、塩を入れて中火にかけ、バターが溶けて沸騰直前になったら火から下ろします。
- ふるっておいた粉類を一気に加え、木べらで手早く混ぜ合わせます。粉っぽさがなくなったら再び弱火にかけ、生地を鍋底にこすりつけるように混ぜながら、鍋底に薄い膜ができるまで1〜2分加熱します。これは生地の水分を飛ばすための重要な工程です。
- 火から下ろし、ボウルに移します。粗熱が取れたら、溶き卵を少しずつ加えながら、都度しっかりと混ぜ合わせます。生地がなめらかで、木べらですくったときにゆっくりと落ちるくらいの固さになれば卵を加えるのを止めます。卵の量は生地の状態を見ながら調整してください。
- 星口金をセットした絞り袋に生地を入れます。オーブンシートを敷いた天板に、大小3種類の大きさに生地を丸く絞り出します。大きさの目安は、大(直径約5cm)、中(直径約3.5cm)、小(直径約2cm)です。生地の表面に指や刷毛で水を軽く塗ると、割れにくくきれいに膨らみます。
- 200℃に予熱したオーブンで10分焼き、その後180℃に下げてさらに15〜20分焼きます。焼きあがったらオーブンの扉を少し開けて、庫内で粗熱を取るとしぼみにくくなります。完全に冷ましてください。
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カスタードクリームを作ります。
- ボウルに卵黄とグラニュー糖を入れ、泡立て器で白っぽくなるまですり混ぜます。
- 薄力粉を加えて混ぜ合わせます。
- 小鍋で牛乳を沸騰直前まで温め、(2)に少しずつ加えながら混ぜます。
- 混ぜ合わせたものを再び小鍋に戻し、中火にかけます。絶えず混ぜながら加熱し、とろみがついたらさらに1〜2分混ぜてしっかりと火を通します。だまにならないように注意してください。
- 火から下ろし、バニラエッセンスを加えて混ぜます。バットに移してラップをぴったりと貼り付け、保冷剤や氷水に当てて急速に冷まします。完全に冷めたら、必要に応じてゴムべらなどでなめらかに練り直します。
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アイシングと飾りを準備します。
- ボウルに粉砂糖を入れ、水を少しずつ加えながら混ぜ、とろりとなめらかになるまで混ぜます。水を加えすぎると固まらなくなるため注意が必要です。
- アイシングを数回に分け、それぞれに食用色素を少量加えてパステルカラーに着色します。
- 板チョコレートは刻んで耐熱容器に入れ、湯煎または電子レンジで溶かします。コルネに入れるか、スプーンなどで細く絞れるように準備します。
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組み立てます。
- 冷めたシュー生地の底に口金で穴を開け、カスタードクリームを絞り袋に入れて生地の中にたっぷりと詰め込みます。
- 大小3種類のシュー生地それぞれに、お好みの色のアイシングを上からかけます。余分なアイシングは自然に垂れさせてください。
- アイシングが少し固まってきたら、大きいシューの上に中くらいのシューを重ね、その上に小さいシューを重ねます。重ねる際に、クリームが接着剤代わりになります。
- 最後に、溶かしたチョコレートを細く絞り出してデコレーションします。映画のように曲線を描いたり、点々をつけたりと、自由に飾り付けを楽しんでください。お好みで刻みピスタチオなどを散らしても良いでしょう。
より美味しく、写真映えさせるポイント
- 盛り付け: お皿に数個まとめて並べる際は、それぞれのコート・ダジュールの色が引き立つように配置すると華やかになります。シンプルに一つずつお皿に置くのも、その美しい形を際立たせる良い方法です。
- アイシングの色: 映画ではピンク、緑、薄黄色などが印象的です。食用色素を少量ずつ使い、淡いパステルカラーに調整すると、より映画の雰囲気に近づけることができます。
- チョコレートの絞り出し: 細い線をきれいに絞り出すのが難しい場合は、竹串やつまようじの先にチョコレートをつけて描くこともできます。
- クリームのアレンジ: カスタードクリームに少量の生クリームを混ぜてディプロマットクリームにすると、より軽い食感になります。また、抹茶やココアパウダーを少量加えてアレンジするのも良いでしょう。
映画と料理の背景(ネタバレ注意)
※本項目には映画のネタバレが含まれます。
メンドルズは、映画の中で最高の菓子店として描かれています。その中でも特に美しいコート・ダジュールは、単なる美味しいお菓子というだけでなく、物語における重要な小道具として機能します。
主人公のグスタヴが逮捕され監獄に入れられた際、彼の忠実なロビー・ボーイであるゼロは、メンドルズの従業員であるアガサに頼んで、コート・ダジュールを差し入れとして届けさせます。このお菓子の中には、グスタヴを脱獄させるための道具、具体的には小さなハンマーやワイヤーカッターなどが巧妙に隠されていました。
脱獄計画では、このコート・ダジュールが刑務官の目を欺くためのアイテムとして、そして実際に脱獄を手助けする道具箱として機能します。美しく繊細な見た目のスイーツが、意外なほど荒々しい脱獄計画に利用されるというギャップが、映画のユーモアと皮肉さを際立たせています。コート・ダジュールは、メンドルズの高い技術だけでなく、グスタヴとゼロの絆、そして物語の展開そのものを象徴する存在と言えるでしょう。
まとめ
映画『グランド・ブダペスト・ホテル』のコート・ダジュールは、その可愛らしい見た目と物語での役割から、多くの観客の心に残るスイーツです。
シュー生地作りやアイシングなど、少し手間のかかる工程がありますが、一つ一つ丁寧に作業を進めることで、映画の世界から飛び出してきたかのような美しいコート・ダジュールを完成させることができます。お菓子作りを通して、映画の華やかで少し不思議な世界観に浸ってみるのも素敵な体験です。
ぜひ、このレシピを参考に、ご自宅で「メンドルズ」の味と見た目を再現してみてください。